獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

長いトンネルの安倍政権

 「国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国であった。」川端康成の小説「雪国」の余りに有名な冒頭である。上越新幹線ができる遙かに前の時代の話で、そこかしこに現代とは異なる雪国特有の風情があった頃である。降り積もる雪に閉ざされて、人々は僅かな温もりを求めて人と触れ合った。義理や人情が世の中を包み込んで、人と人との"誠"が尊ばれた時代である。

 多くの古今の名作に登場する人間はどれも熱い血が通った人間らしい人間で、触れずとも伝わってくる"温もり"があった。どんなに過酷であろうとも「明けない夜はない」と信じて、一日一日を生きていた。どんなに長いトンネルも前へ進めば、必ず景色と世の中が見えた。例え暮らしは貧しくても、明日は明るい青空が望めるという希望があった。

 現在我が国は長いデフレによる閉塞感からようやく抜け出たものの、その先が見通せない新たな閉塞感に陥っている。善し悪しはともかくとして安倍政権は政敵がないまま異例の長期政権になった。然したる見るべき成果もないまま、ズルズルと芋づるの如く与党内に根を下ろして勢力を拡大している。

 安倍政権の誕生は功罪相半ばするが、敢えてここではネガティブな側面に目をつぶろう。ともかくも我が国憲政史上最長の政権を維持している今、誕生時の古傷を蒸し返しても大して意味を成さないと思うからである。安倍総理自身を云々するよりも、安倍総理を取り巻く環境に目を移さねばならない。

 言うまでもなく自民党安倍総理の祖父岸信介元総理が生みの親である。その精ではあるまいが、国会で圧倒的多数を占める与党自民党内で、誰一人として安倍総理に物言い出来る人が居ない。これまた善し悪し抜きの話だが、自由と民主主義を掲げる我が国だが事実上は「独裁国家」の観を呈している。

 自民党始まって以来前例がない事態になっている。グローバル化の波に乗り遅れず、その恩恵に浴して手中にした"豊かさ"で国民の目は政治に無関心になった。現政権を脅かす野党が存在せず、専ら関心は自民党限定の時代に舞い戻って、大同小異で誰がなっても同じとの妙な安心感が国民にある。

 極右思想で知られる安倍総理だが、実際に政権を担当して見て国民は「右・左」の違いが分かり難くなった。どちらでも良いとの妙な信頼感が生まれて、現在の安倍総理を変えるべきと思う人が激減した。変えるべきと考える国民も代わりの人材が居ないので、変な奴が出てくるよりは現状の安倍総理で良いと選択せざるを得ない。

 我が国の現状は誠に危機的である。何が危機的かと言えば、前へ進むための材料が何もない。現在の自民党内で多少なりと異色派を探せば石破茂だろう。マスコミが取り沙汰する岸田文雄は骨がないピノキオである。この二人の他に誰か居るかと見回してみても、居るのはドングリばかりで顔がないガラクタの類いばかりだ。

 僅かに光明が見られるとすれば現外相の茂木だろう。なぜ人気があるのかサッパリ判らない小泉環境相は正体も中身も空の"張り子の虎"だし、他に総理・総裁の重責に耐えられそうな面々は見当たらない。現副総理の麻生太郎はとうの昔に"賞味期限切れ"だし、河野防衛相は思想・信条の肝を抜かれた"浮浪左派"の根無し草だ。

 唯一安倍総理と総理・総裁の椅子を争った石破茂元幹事長は、自民党右派を代表する安倍総理に対して旧中間派の代表格だが、派閥の信頼は茂木外相に大きく傾いている。恩師田中角栄元総理を受け継いでいる面影が見られないばかりか、清濁併せ呑んだ恩師の行状には程遠い。利権と損得で動く自民党にあって議員諸公の信頼を得るのは至難だ。

 思想・信条はともかくとして、この人の傘に入れば大臣の椅子が約束される安倍総理は無敵だ。欲得の算盤を弾いてなびく議員心理は今も昔も変わらない。カネがパワーの源泉で、数こそが長く自民党を支配する不変の哲学だ。異例の長期政権で盤石の地下水脈を誇る右派「清和会」に弓引くことは、政治生命(?)を絶たれることに直結する。

 かくして長い長い国境のトンネルを抜け出す見込みはほぼない。何某かの余程の奇跡が起きない限り、我が国の近未来は現状維持のトンネルの中である。決して明るくはない豊かで便利な時代が延々続くのである。LEDに替わって世の中もトンネルの中も格段に明るくなったのに、何故か時代の先行きを照らすライトは未だ点灯しないままだ。