獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

フェーク・ニュースの功罪

 愈々来るべきものが来た。テレビが伝えるフェーク・ニュースの特集番組を見ての率直な感想である。携帯電話が世に登場してその便利さが急速に広まるにつけ、いつの日にか今日の事態が現実化するだろうと予想していた。特に先進国や後発国を問わずに急激に普及したスマホは、今や老若男女全ての必須アイテムになっている。

 小さな箱の中に世界が詰まっているとでも表現できるこの便利なスマホは、今更言うまでもなく便利である分「両刃の剣」でもある。近代に顕在化して現代に到って先鋭化した科学文明の危うさを、奇しくも指し示して余りある様相だ。情報という得体が知れない怪物が、今や小中学生の手中にまである。

 現在の北朝鮮金王朝(?)を引き合いに出すまでもなく、未曾有の殺人兵器が小さな国の独裁者によってゲームに使われている。世界のどの国の為政者でも望めば、いとも簡単にそれを駆使できる環境が整っている。体は大人でも知能程度は幼児のままの指導者が次々誕生する現代社会では、至って簡単に一国家や一民族を消し去ることが「子供の遊び」になりつつある。

 幼児期からバーチャルリアリティに慣れ親しんで育った世代は、何らの理由もなく突然他人を殺傷することを厭わない。単に己の感情が赴くまま、大量殺人に走ることが決して珍しくない。先頃死刑判決が出た相模原市の障害者施設殺人事件のように、ほんの少しのきっかけで顕在化する火種は社会に広く蔓延している。

 「豊かで便利な社会」に慣れ親しんで人心が何となく停滞している社会の風潮は、平凡な日常を嫌って常に「目新しさ」を追い求めている。マスコミがこれでもかとばかりに煽り立てる軽薄な"悪乗り情報"に刺激されて、事の善悪やその是非を考えることなく、真偽が定かでない"安普請"に飛びつく。己だけで満足できずに、無関係な他人を扇動し、巻き込んで得られる"共通感覚"に陶酔する遊びが大流行だ。

 それらの当事者に共通するのは、実にあっけらかんとした責任意識の欠如だ。他人の生死を弄ぶことへの罪悪感など欠片ほども存在しない。「赤信号みんなで渡れば怖くない」の類いなのである。誰かがやってるのを見て面白そうだからという理由のみで、時と場合によっては信じ難い社会の混乱と大量殺戮に及ぶのである。

 普通のことや当たり前のことは退屈で面白くないから、常識外の言動こそが彼ら彼女らの"新常識"なのである。他人や社会にとって迷惑を超える犯罪行為であっても、当人達にとって「面白ければ良い」のだ。旧世代の日本人には信じ難い、想像を超える世界が現実化している。リアルニュースには無関心で、真偽不明のフェークニュースを愉快だと受け止め、それが真実だと信じる世代が世界中に蔓延している。

 世の中の実相の何が真実で、何が偽装なのかが不明である。世界の政治の舞台で「嘘と偽装」が隆盛を極め、我が国の実例を待つまでもなく「嘘」こそが政治の正道との趣が顕著だ。そんな時代にフェークニュースを拡散させる絶好の道具であるスマホが、何らの規制もなく世に氾濫している。誰でもが情報発信者になって、見知らぬ誰かの生活や人生を弄べる時代なのである。

 現代社会は物事の真偽が問われない自由社会だ。バーチャル・ゲームよろしく、大人も子供も等しく大いに踊り踊らされるのに抵抗感が薄れている。個人の段階に留まっている間はまだいいとして、これがやがて北朝鮮のように国家間の政治ゲームに発展しない保証はどこにもない。スマホの小さな画面から、一国家を超えて世界を揺るがす核戦争へと発展しても決して不思議ではない。

 人類はついに退屈凌ぎにパンドラの箱を開けて、自らの滅亡へと走り出したのかも知れない。