獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

即席麺今昔

 インスタントラーメンという言葉が世に誕生して久しい。その誕生時を知っているお方は私同様に相当お年を召した方々になった。現在の日本人の大半は生まれた時には既に身近に各種のインスタントラーメンがあった。誰でもお湯を注げばすぐに食べられる便利さが受けて、日本を代表する味として世界を席巻した。

 この便利なインスタントラーメンを開発した安藤百福なる人物は正にノーベル賞に値する発明だと思うが、何故か知らないがノーベル賞は素っ気ない。人間社会に対する貢献度では圧倒的でも、生活に直結するものは対象にならないらしい。安藤百福が大阪で創業した日清食品は今や東京にも同様の本社を構えて、世界を相手に商売している。

 最早時効だと思うので言わして貰うが、誕生間もない頃のインスタントラーメンはお世辞にも旨いと言える食べ物ではなかった。最大の特徴はと言えば、お湯を注いだ3分後に急いで食べないとすぐに伸びてふにゃふにゃになり、まともに食える性質のものではなかった。唯一の取り柄はその便利さで、便利さゆえに売れたのである。

 その後に改良に次ぐ改良を重ねてようやくまともに食えるようになったが、インスタントラーメンの成功に合わせて次々発売された新商品の饂飩や蕎麦類に関しては、当初から食感は間違いなく饂飩であり蕎麦なのだが、食後に油臭さが口に残った。つるつるした食感を出して柔らかくなるのを防ぐための「油揚げ技法」が、良くも悪くも最後の関門になった。

 近年その「油揚げ技法」を卒業した「ノンフライ製法」が開発されて、お湯を注いでから食べられるまでの時間は常識化していた3分から4分に延びたが、生麺に迫る味と食感とでレトルト食品に比肩するものとなった。最早我が国の家庭には欠かせない食品として愛され続けている。今や本物のラーメンを凌ぐ圧倒的な数量を誇っている。

 ラーメンが「中華そば」として我が国に誕生した経緯はともかくとして、在日中国人によって生み出されて以来日本人に愛されて日本の味になった。一時期は消えたに見えた「中華そば」という名称が近年復活して、ちょっとしたリバイバル現象になった。九州博多の「豚骨ラーメン」に対抗する「東京ラーメン」を代表する味として少数派に支持され続けている。

 食に関して言えば東京は言わずと知れた無国籍地帯で、ラーメンのみに関わらず世界中のあらゆる国の料理を提供する店が林立している。ことラーメンに関しても古くからある関東系の味と、今やラーメンの代表格に昇格した感が強い九州系とが妍を競っている。それはそのままインスタントラーメンの商品化にも持ち込まれて、メーカーは東京と大阪に二分されている。

 その特徴を示しているのが、インスタントラーメンのオリジナル・メーカー日清食品が発売している饂飩の「どん兵衛」で、東日本と西日本とで味付けが異なる。何故か不思議にラーメンには違う味の同一商品はないが、その代わりに違う味がシリーズ化されて其れぞれ発売されている。インスタントの「焼そば」同様に、注いだお湯を捨てて粉末や液体スープを加える生タイプの饂飩も登場している。

 善し悪しは別にして日本人の食生活は誠に多彩で、一日三食を麺類とパン食に和食を加えている家庭が多い。日本人家庭でも一日三食を和食のご飯で過ごしている例は少ないだろう。これからの季節に合わせた夏の定番「冷やし中華」は、インスタントとレトルトとが覇を競っている。多彩な具が添えてあってスープをかけるだけのレトルトに分があるが、独特の食感があるインスタントも安くて旨い。

 インスタントラーメン大好き人間にとっては誠に幸せな時代だが、今ひとつ注文をつけるとすれば「油揚げ麺」の卒業である。元々スープに油を使用するラーメンでは目立たないとは言え、本来油を使わない生麺とは明瞭に異なる「油揚げ麺」は無理がある。カロリー過剰になって太るという問題もある。食後の胸焼けという課題を克服するためにも、早急に生産を中止すべきである。

 思えば随分長いことお付き合いしてきたインスタントラーメンだが、世界文化遺産になった和食に勝るとも劣らない"番外和食"として、これからも長く愛され続けるだろう。言葉上の分類はともかくとして、世界の主要都市に展開するラーメン店は名実ともに日本文化として認知されている。インスタントラーメンが果たした役割は誠に計り知れない。

 「インスタント」「即席」という言葉を定着させたのもインスタントラーメンである。それら諸々を勘案してもやはり発明者の安藤百福は"ノーベル賞"ものだ。そう思いつつ私は今日も数々あるインスタントラーメンに親しんでいる。"幸せだな~"