獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

コロナウイルス騒動記

 長く連日コロナウイルスに関する報道に接していながら、よもやそれが我が身に降りかかるとは努々想像もしていなかった。定期的に通院しているいつもの大学病院で、例によって入口で検温を受けたら37.6℃あった。肺癌の再発が確認されてからは毎朝体温と体重を計っているが、この日の朝は何故か37.1℃あった。

 若しかしたらとの懸念はあったが、案の定タクシーを降りて向かった病院の玄関で足止めされた。担当看護師に肺癌再発患者であることを告げ、療養中の自宅から外へ出ていない旨を話しても、規則だからとの理由で直ちに入口近くの別室へ隔離された。常時軽い肺炎状態にあり普段から体温は37℃を前後しているのだが、通常なら入院して治療を受けているべき患者が付き添いなしで通院するのは不自然らしく、呼吸器外科の主治医へ確認するとの一点張りだった。

 入口からすぐの授乳室が臨時の隔離病室化されて、一人ポツンと放り込まれた。ドアの外には二人の看護師が見張り番をする物々しさで、部屋から出るのはトイレへ行くのにも必ず看護師が付き添って使用後の便器ばかりでなく、手洗いした洗面台やドアノブなど触れたものすべてを目の前でアルコール消毒した。コロナウイルス感染者の疑いだが、扱いは完全に感染者そのものだった。

 広い待合から溢れるほどの大勢の外来患者を受け持つ主治医は容易に手が離せず、病状を知るが故に容態急変を案じて緊急CT検査の指示が出た。入口近くの隔離病室から検査室までは遠く、車椅子に乗せられて他の患者がいない病院外へ一旦出て救急車の出入り口から院内へ入り直す手の込んだ入念なルートが取られた。

 複数のCT機器が並ぶ検査室の一つを完全に遮断して通路を通行止めにした上で、私のCT検査は行われた。立ち会う検査技師は全員が完全武装で誰が誰やら確認するのが難しい様相で検査を受けた。終わった後の隔離病室への帰路も来るとき同様の特殊ルートで、3人の看護師が付き添った。採血検査とCT検査の結果が出て、それらを確認した主治医がこれまた完全武装で隔離病室へ現れたのは夕刻近い時間になってからだった。

 通院以外は一切外出していない重症患者のコロナ感染疑いは、かくして当初の緊急入院という病院側の判断がようやく覆った。念のためにコロナのPCR検査を受けて自宅へ帰れる仕儀と相成った。予定されていた内服薬と外用薬の処方もいつもの院外処方から急遽院内処方に切り替わった。国や東京都の通達とは言え高齢の重症患者を感染者扱いしたことを、主治医が丁重に詫びて1件落着となった。

 外来での予約診察のため大学病院へ到着してから大凡5時間が経過していた。隔離病室を出られないので、外食も買い食いも出来ないまま「飲まず食わず」でひたすら頻尿に耐えた1日になった。頻尿の持病を持つ高齢者は飲まずともトイレが近い。距離がある外のトイレへ辿り着く前に何度か失禁した。念のために装着していた「尿漏れパット」で大事には到らなかったが、何とも後味が悪い「コロナウイルス騒動記」であった。