獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

お盆休みと帰省

 急に現れたコロナウイルスの感染拡大で夏模様が様変わりしている。日々記録を更新し続ける感染者数に、万事に呑気なこの国の制度も外食や行楽を奨励するキャンペーンをスローダウンせざるを得なくなったようだ。それでも政府が振る旗に乗っかって行楽に出掛けるバカが相変わらず居るが、大方の国民はそれほど単純ではない。

 善し悪しは別として季節を彩る歳時記が各地にある。旧盆を利用しての故郷への里帰りはその代表的なものだろう。里帰りする故郷を持たない人たちが今や少なくないが、私もその一人だ。自分のことはさて置いて、年老いてゆく故郷の両親に成長した孫の顔を見せるために、例年だと恒例の殺人的混雑を覚悟して出向く。

 古来の仏教行事であるお盆の意味は理解していなくても、兎も角も周囲に習って移動するのが恒例だ。その長年の恒例行事が今年は様子が違うらしい。マスコミ報道は決まって混雑の度合いをオーバーに伝えるが、今年の新幹線や空の便、高速道路は様子が一変しているようだ。未曾有と言われた阪神淡路大震災東日本大震災でも、これほどの変化は見られなかった。

 コロナウイルスは突然出現して瞬く間に世界を制覇した観がある。肉眼では見えない小さな物体が進化した科学を有する人間社会を激しく揺さぶっている。その猛威に為す術がない趣の世界は、人間生活の変更を余儀なくされているのが現状だ。何を差し置いても金儲けが最優先の市場経済主義下で、カネで買えものがあることを知らしめている。

 戦後長く常識とされてきたことが市場経済の競争に負けて姿を消した。遠きにありて想うものとノスタルジーの彼方で輝いていた故郷も、今や様変わりが激しくて古き良き時代を遠くへ追いやった。高齢化と過疎化の同時進行に加えて、後継者難から廃業する店が増えて街から人影が消えている。高齢者ばかりのゴーストタウンの如き地方都市が次々出現している。

 それでもどう様変わりしようが生まれ育った土地は忘れ難い。だからと言って何かをするわけではないが、親が生きている間はやはり掛け替えがない故郷だ。離れて長い年月が経過するほど故郷への思いは募り、歓迎されてもされなくても墓参を兼ねた帰省は欠かせない年中行事だ。

 普段の生活で意識することなく過ごしていても、変わり果てた故郷の地に立つと否応なく家族を思い親戚縁者の消息に接する。自分自身のルーツと向き合い、日々の都会暮らしとは違う素顔に戻る。生活様式の変化で失われつつある方言に久しぶりに接すると、自分が誰かが分かり、どう装おうと隠しきれない、誤魔化せない自分に出会う。

 狭い日本列島だからどの土地で吸う空気も大差ないのだが、それでも生まれ育った土地の空気は格別だ。実際の違いは兎も角として、体の奥底まで染み渡るような清々しさを実感するだろう。都会で生まれ、都会で暮らす子供達は、何気なく触れる無邪気な景色の中に普段接する親の顔とは違う表情を見て、大人になる意味を噛み締めるのである。

 年中行事の帰省だが、それが私たち日本人に与える影響は計り知れず大きい。若しそれが失われるとしたら、その損失は何も関係業界の売り上げ減に留まらない。日本人の暮らしそのものと、日本文化をも変容させるであろう。コロナウイルスの影響は、最早影響という言葉の定義を超えて巨大な拡がりを見せている。