獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

今年も元気!! 鈴虫合唱団

 鈴虫さんが元気だ。今年も8月下旬から徐々に鳴き始め、9月の声を聞くと一段と賑やかにかしましく"揃い踏み"を始めた。例年のこととは言え、2度の癌手術を終えた昨年は次々に現れる初体験の後遺症に悩まされ、折角の「鈴虫さんの大合唱」も殆ど耳に届かなかった。元気になった今年は改めて、毎夜その澄んだ音色に酔い痴れている。

 我が家は旧住宅公団が東京多摩地区の丘陵地帯に開発した古い大型団地で、築40年以上の中層集合住宅が並ぶ。2,500戸以上ある中で5棟のみの11階建て高層住宅だ。小高い丘の上なので、1階のエントランスが既に他の中層住宅の屋上の上に位置する。我が家はその8階だが、実質的には14,15階に相当する。

 Lの字の長い方を背中合わせに並べたような独特の変形高層住宅だが、全戸が真南向きに建てられている。南北と東側は開けているので、天候に恵まれれば都心のスカイツリー府中市国分寺市の再開発高層ビル群などが見渡せる。西側は目の前に迫る位置に小高い山があり、全体を天然の雑木林が覆っている。大量に生息する鈴虫さんたちの住みかだ。

 つい先頃までは蝉さんたちの大群が「真夏の饗宴」を繰り広げていた場所で、早春には一際甲高い鶯の声が響き渡る。所々にに点在する山桜の遠慮がちな薄紅色と共に、それぞれの季節の去就を知らせてくれるのだ。初秋の今の季節は主役が鈴虫さんたちで、日暮れと共に"大合唱"が始まる。

 丁度夕食の時間と重なるのだが、老妻と二人の我が家はテレビを消してLED照明を暗くして、西側のガラス戸を開け放って暫し鈴虫さんたちの鳴き声に浸るのだ。専用の網戸を設置してはいるが真夏でも蚊がいないので時々開け放つが、初秋のこの時期は色々な大小の虫さんたちが訪ねて来てくれる。閉めた網戸に張り付くように停まっている。

 東京の街中に程近い場所で、騒音や物音に煩わされず「鈴虫さんたちの大合唱」を耳に出来るところは少ない。大庭園を擁する料亭や食事処で、高価な料金を払わねば容易には得られないだろう。けれども我が家は毎夜目の前に広がる森から、手に取るように「鈴虫さんたちの大合唱」が届く。これを「至福」と言わずして、何を「至福」と言おうか。

 "小さな幸せ"や"至福のひととき"は身近にある。それはテレビや雑誌などで賑々しく伝えられる"うるさい情報"では決して得られない。無駄な出費を強いる"紐付き情報"に惑わされることなく、ご自分なりの「至福」を探されたら如何だろうか。我が家の「鈴虫さんたちの大合唱」はまだ当分続く。小高い山の上の空気は少し冷たくても、ガラス戸を閉めずに酔い痴れようと思う。