獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

老人日記(4)

 高齢者も何かと忙しい。老妻が齢80を目前にしてダウンした。椎間板から股関節にかけての骨の異常とかで歩行困難になった。室内は周りのものに掴まりながら何とか動けるが、戸外へ出るのは無理になった。老夫婦だけの世帯は一方がダウンすると、当然の帰結として残る一方に生活の全てが託される。

 生活上のことは何もしないを身上として55年を生きてきたので、思いがけない老妻のダウンで"てんやわんや"の大騒動になった。100m程度の至近距離にスーパーや外食店が数軒あるので当面は弁当や出前で凌いだが、何分にも慣れぬ事で何がどこにあるのか分からない。毎日の下着についても一々老妻に聞かねばならない始末になった。

 数日から一週間程度なら何とかなるとタカを括っていたが、雲行きが怪しくなってどうやら長期化する気配になって来た。さあどうするか思案のしどころだが、これと言って妙案も思い浮かばないまま、仕方なく自分で出来ることから始めようと決心して、まず台所仕事から始めた。と言っても料理などは出来ないので、貯まった弁当の容器を洗うことから着手した。

 地元自治体が発行しているゴミカレンダーを見て、収集日を確認してその分類表に従って区分けして、有料ゴミの袋へ入れて収集日に所定の置き場へ出した。次いで埃が目立ち始めた住居内の掃除に取りかかった。これは掃除機の使用で難なく乗り切ったが、浴室の掃除には手こずった。約3年間一度もやらず仕舞いだった天井とタイルの壁にカビがついて、所々黒ずんでいた。

 送料無料のヨドバシカメラとアマゾンの通販をフル活用して、必要な洗剤や用具・用品を一通り調達した。実際に作業を始めて気づいたが、シャワーのホースが短くて天井や壁の上部に水をかけられない。慌てて2mのシャワーホースを追加注文した。届いて取り付けようとしたら今度はメーカー違いでシャワーヘッドのネジ山が合わない。

 やむなくメーカーを確認してアダプターとパッキンを更に追加注文する羽目になった。それが届いてようやく無事取り付けが完了した。塩素系のカビキラーを使用するので、履かなくなった古いジーンズを引っ張り出して着用し、工事用防具の厚いジーンズ製エプロンに頭はアクリル製のショウちゃん帽にサングラスで作業を始めた。

 各種のブラシとスポンジ類を買い揃えたので準備万端であったが、タイルの目地に貼り付いた黒カビは難敵で、容易には落とせず苦戦した。高齢者ゆえ急ぐ理由はなく、とにかく時間をかけてでも落ちるまで繰り返し、やっとの思いで何とか退治した。長いホースに換えたシャワーで洗い流すと、見違えるように綺麗になった。

 人間何事も諦めずにやってみるものだと齢80を目の前にして再確認したが、大変だった作業の苦労は一瞬で忘れて、久々に達成感を味わう顛末になった。何もしないと自慢げに得意満面になっていた自分自身を改めて恥じた。今度は何に挑戦しようかと新たな意欲も湧いてきて、老骨とて満更捨てたものではないと妙な自信を持つに到った。

 兎にも角にも人生何があるかは分からない。高齢者は尚のこと不測の事態に慌てないよう、日頃の備えが大切なようだ。誰しもが分かっていて、それでいて中々実行できないのが現実だと思うので、この際だから言うわけではないが、要は心がけ次第ということになりそうである。