獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

吹き渡る秋風

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 秋の風は冷たい。春の風は歓迎されても、冷たい秋の風には顔を背ける。首にマフラーを巻き、コートの襟を立てて人は足早に通り過ぎていく。足元に舞う枯葉に目を留める人は殆どいない。小春日和の暖かい日もあるが、何故か道を行く人々は足早だ。街角の風情が変わって、昔そこかしこに見られた暖色系の街灯が白く眩しいLEDになった。

 午後の日差しが長く伸びて、街路樹の影が道路に伸びる風景が街から消えた。道路の両側に聳え立つビル群に囲まれて、太陽の温もりを肌に感じることがなくなった。西空が茜色に夕焼して、家々がその反射を受けて赤茶色に浮かび上がる夕景色が見られなくなった。いつどこでも風は無表情に吹いているが、その風を意識する人は少ない。

 いつの間にか気づかぬうちに変わった街の風景と、通り抜ける風のように足早に変わっていく時代。何かをどこかに忘れてきたような、そんな感慨を持つのは老人ゆえかも知れない。吹き渡る風は変わらないのに、世の中が、そして時代が、激しくうねるでもなく音も立てず、眼に入るものと耳に届くものとを変えていく。

 淡々と過ぎていく都会の日常は一見無表情に思える。だが少し神経を研ぎ澄ませれば、少し日常から離れれば、そこに吹いている風と季節を感じることができる。何気ない瞬間の連続から、過ぎ去った日々と来たるべき明日が垣間見えるだろう。意識せず何となく忘れている自分自身に、きっと出会えるだろう。

 吹き渡る秋の風は冷たくても、ポケットから手を出して、背けた頬をまっすぐにしてみよう。風の音と臭いを感じられたら、きっと明日は佳い日になるに違いない。