獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

日本共産党の不思議

 世の中には色々な不思議があるが、中でも政治に関する不思議は不思議を飛び越えて「奇怪」の部類に属するものが少なくない。国会に議席を持つ与野党それぞれにミステリーを秘めているが、政党として一番長い歴史を誇る日本共産党は特に傑出している。「万年野党」という言葉を体現しているかの如きであるが、この言葉が一番似合う点でも特筆に値する。

 日本共産党という党名が全てを物語るように、紛れもない共産主義政党である。以前から不思議に思っていたが、現在世界の国々で共産主義を唯一無二の絶対的権威として掲げるのはお隣の大国中国のみである。その中国と地続きの朝鮮半島の凡そ半分を占める北朝鮮があるが、毛沢東イズムをコピーした歴然とした共産主義国家だが政党名は「労働党」である。

 規模とその影響力は比べるべくもないが、中国共産党と並ぶ日本共産党という党名だけ見れば「赤旗」を掲げる部分でも共通して見える。申し訳ないが現在の我が国で、共産主義国家を望む層がどの程度居るのか大いに興味がある。各種の世論調査や選挙で示される支持率や得票が、そのまま日本共産党の実勢とはとても思えないからだ。

 激動の昭和時代に戦前・戦中・戦後を通じてマルクスレーニン思想が一大ブームになった。私も若き日に大月書店から刊行されている膨大な「マルクスレーニン全集」を夢中で読破した一人である。人類社会の理想像だと賞賛されて、インテリ層や学生層のステータス的存在として持て囃された。ソビエト連邦を頂点とする共産主義陣営が急激に世界へ拡散したのに危機感を抱いた自由主義陣営は、治安維持を理由に実質的な共産主義弾圧に乗り出した。

 我が国もご多分に漏れず特高公安警察が強硬な「赤狩り」を実施して、疑わしき者は悉く検挙して投獄する徹底した弾圧を行った。当時の日本共産党幹部は次々検挙され、その後の長い投獄生活を余儀なくされた。"筋金入り"という言葉が流行したように、度重なる拷問に耐えて思想信条を曲げなかったマルキストが、世の賞賛を浴びたセピアの時代があった。

 命を賭けて思想・信条を守り抜く人達の姿に共鳴して共産党入りする国民が増え、機関誌「赤旗」の発行部数は飛躍的に伸びたのである。党員数は与野党を問わず№1で他党を圧倒したのだ。しかし、日本共産党の隆盛はここまでで、実効性ある主張や政治公約を掲げられないジレンマに陥り、変わり映えしない硬直した主張を繰り返すのみになった。

 一方の頼みの綱であった学生層が60年安保の挫折で離れ始め、総評を中心とした日本社会党との労働運動での分裂が決定打になった。革新陣営が細胞分裂を起こして次々細分化されたのと対照的に、保守合同による自由民主党の結成で保守政権は不動のものとなった。ソ連や中国の共産主義にほころびが目立ち始め、マルクスレーニン主義が大きく揺らいだ。

 そんな背景の中でも日本共産党の思想・信条は変わらず、敢えて言えば色褪せた一枚岩にしがみつく守りの姿勢ばかりが眼についた。急激に増えた党員は減るのもまた早く、一部の盲目的支持層を除いた大半は共産党を去った。この時点で「万年野党」が不動の現実になって現在に到っている。日本共産党の最大特徴は硬直した人事で、中国共産党が度々刷新されているのと比較すると、「世襲制」の北朝鮮に似通っている。

 北朝鮮や中国を例に取るまでもなく崩壊したソビエト連邦や東欧諸国も等しく、人類社会の理想像と讃えられたマルクスレーニン主義とは程遠く、言論の自由さえ認めない強権の「恐怖政治」である。政府に抗する者は容赦なく検挙され、人権裁判もなく処刑されるケースが相次いでいる。党幹部の意向は法にも勝る権力そのもので、ありとあらゆる力と富を独占する。

 現在の我が国でそんな北朝鮮や中国と同様の「共産主義」を望む人が、現実に存在するとは到底考えられない。むしろ"毛嫌い"する人の数が圧倒的だろうと拝察する。しかし世の中は分からないもので、日本共産党の不思議はそこにある。今や"恐怖"の代名詞である「共産主義」を敢えて党名にして憚らないのは何ゆえなのか。

 加えてである、国政選挙になれば必ずその日本共産党の候補者を、堂々と推薦する知識人や著名文化人が数多居るのである。ぶっちゃけた話がどう見ても当選する可能性が皆無に近い候補者を、臆面もなく推薦するから不思議である。当選する可能性がないと判っていながら立候補する人が居て、それを著名な知識人や文化人が推薦する図式は長い日本共産党の伝統のようだ。

 いつも不思議でならないのは、何も選挙に限った話ではない。数は少ないが不思議に当選して国会に議席を持つ党役員は、党の機関決定だと言ってほぼ全ての議案に「反対」する。「何でも反対の共産党」とのキャッチフレーズが持て囃されるように、事の善し悪しに関わらず兎も角も反対するのが使命であるが如き風情である。

 選挙結果を待たずに落選が約束されているような候補者を、恥じることなく全国各地に擁立して、落選に次ぐ落選を繰り返すのが日本共産党の習性のようだ。決して少なくはない選挙資金や、党の運営費はそれでも潤沢に調達されて、我が国で唯一政党助成金を辞退して受けていない。

 何から可にまで不思議ずくめの"びっくり箱"政党だが、どう贔屓目に見ても我が国で共産党政権が誕生するとは考えられないが、この度は国民民主党小沢一郎氏と提携するらしい。"政界のぶっ壊し屋"と異名を取る元自民党幹事長と手を携えて、何をやろうというのだろうか。

 "夢見る夢子ちゃん"という漫画が昔あったが、現実を直視することなく色褪せたマルクスレーニン主義の夢醒めやらぬ「夢遊病者」の人々が少なからず居るようで、誠に"ご愁傷さま"としか申し上げようがない。この混沌とした混迷の時代に、飽きもせず、懲りもせず、"夢見る夢子ちゃん"で居られる人達は実にハッピーで羨ましい。

 だからと言って、私も仲間入りする気は悪いが毛頭ない。