雨上がりの晩秋
珍しく長い雨が上がった。朝方まで降り続いた雨が止んで薄日が漏れ出すと、色づいた木々の葉に残る雨滴が艶を帯びて輝き出す。ガラスの破片が飛び散ったようにキラキラと光って、息を潜めていた色づいた葉が急に生気を帯びたように、命のトレモロを奏で始める。遊歩道に広がる落葉さえ、一枚一枚がここに居るよと呼びかけてくる。
秋の終わりは何かしら命の終わりを感じさせて物悲しいが、それでも吹く風や、降る雨が、樹木や草花の協力を得て荘厳なシンフォニーを奏でる。どこにでもある造作のない雑木林や森でさえ、去りゆく季節を惜しんで錦模様に衣替えする。地上に生きるものすべてが、命の絶唱を響かせるのである。
少し湿った空気を肺癌手術をした胸一杯に吸い込んで、見上げる木々の風情は晩秋のセレナーデだ。微かな風に舞い落ちる葉々の切なさだろうか、ひらひらと身をくねらせて地上に辿り着く。まだ濡れている落葉の遊歩道は、訪れる人影もなくひっそりとそこに佇んでいる。静寂という言葉が改めて胸に去来する日曜日の朝だ。
余計な会話が必要ない錦模様の森と、道端の小さな植え込みに咲く花を愛でて、何かしらとても幸せな気分になった。