獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

晩秋の雨

 今日は朝からの雨だ。気象情報によれば今シーズン一番の冷え込みらしい。目の前にある紅葉した森が雨に煙っている。ありふれた表現だが、薄墨を溶かしたように煙っている。近くの小さな森や林はぼんやり見えるが、少し遠い低い山は霞に隠れて見えない。

 毎日目にしている風景だが降り続く雨は珍しいので、いつもと違って新鮮に見える。晩秋から冬へと移る季節は、関東平野は「冬晴れ」が続く。冷たい木枯らしが吹き付けて一気に季節が進むのだが、空は深い青空だ。反対に日本海側の地域は雪が降り続くようだ。

 関東の乾いた北風に比べると、日本海側の新潟や山形などに吹く風は湿って重い気がする。鉛色の空から落ちてくる大きな雪は風情があっても、横殴りに吹き付ける粉雪は冷酷に人の暮らしと心を直撃する。何故かは知らぬが不思議に、遠い日の過ぎ去った女性を思い出す。

 関東の雨は雨で、お互い傘を持たぬ同士の出会いがある。濡れながら見交わした艶っぽい瞳も忘れ難い。東京の暮らしは季節感と無縁のように思われるが、歩道に敷き詰められたような黄色い銀杏の落葉など、心に余裕があれば充分季節を堪能できる。

 人と人との出会いはいつもドラマのようにロマンチックではないが、それでもふと触れ合った肌の温もりなどは不思議に憶えているものだ。移りゆく季節の中の一シーンに重なって、輝くような表情や愁いを秘めた横顔など、長い時間が経過しても何故か妙に生々しく甦るのである。

 枯葉の季節の女性たちは異口同音に早足だ。後を振り向かずに、前を向いて急ぎ足で通り過ぎてゆく。現れた瞬間に消えていく。無情の風のようだ。他人同士が出会い縁を結ぶには自然の助けが必要だ。冷たい雨や雪が不思議に似合うのである。

 どうしてか理由は定かでないが、冷たい雨の日に傘へ入れてくれた縁でその日のうちに結ばれてしまった女性がいた。物憂げに背けた横顔と、熱く白い肌が忘れ難く記憶に残っている。出会いの雨は冷たかったが、激しく嗚咽して悶えた裸身は熱かった。

 晩秋の雨に煙る錦模様の森は色々な記憶を呼び覚ます。薄墨のベールに隠されたような風情は、見えない分だけ想像力を搔き立ててくれる。やけに熱く、不思議に生々しいのである。雨は尚も降り続いている。次はどんな女性が登場するのか楽しみだ。