獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

桜あんパン

 日本人なら「あんパン」を知らぬ者はいないだろう。最近は米のご飯よりもパン食を好む人が多いと見えて、街中のパン屋さんはどこの店も溢れるばかりに多種類のパンが店内に鎮座している。フランスあり、イギリスやドイツなどに加えてアメリカンスタイルや北欧風もあり、実に多彩である。

 日本人は元々米のご飯が定番であったが、戦後に進駐したアメリカ軍の影響で民主主義と共に欧風の文化が一気に雪崩れ込んだ。こんな表現をすると"古い"と笑われそうだが、事ほど左様に戦後の暮らしは遠くなった。高齢者のノスタルジーの中に微かに息ずくだけだろう。そもそも日本人とは何かさえが怪しい昨今である。

 戦後の暮らしを知る人には言うにいわれぬ郷愁を誘う「あんパン」だが、時代の進化と共に品質は格段に良くなった。丸い形は昔のままだが、中に入っているあんこは変わらず甘い。広く知られる如くに「あんパン」の発祥は東京銀座に今もある老舗木村屋總本店で、全国のパン屋さんで作られ、売られているのはその亜流、現代風にいえばコピー商品である。

 その老舗本家木村屋總本店が季節限定で発売している「桜あん入りあんぱん」をご存じだろうか。多分関東地区だけで売られているものと推定するが、木村屋總本店伝統のキャッチフレーズ「伝統の香りと食感の生地」とピンクで表示されている「あんパン」である。通常の「あんパン」と異なる点は、真ん中のえくぼに桜葉の塩漬けと共に、薄いピンクの桜ジャムがトッピングされている。

 一口食べるとすぐに分かるが、あんこ自体が桜の香りに満ちて口一杯に春が拡がる。言うにいわれぬ幸せな感じに浸れる"優れもの"である。季節を反映した春らしい和食は数々あるが、有名どころの京都の懐石料理を食するまでもなく、丸く可愛らしい「あんパン」一個で春を堪能できるのである。

 世のグルメとかには何ら興味がないが、100円少々で季節感と幸福感の両方を手にできる機会は決して多くはない。誰でもがいつどこでも味わえる美味・珍味こそが、本物のグルメと信じて疑わないので、一個の「あんパン」や一杯のラーメンとの出会いで感じる至福感こそが人生だと思っている。

 余りに身近すぎてうっかりすると見逃しがちだが、意外なところで季節に出会い、忘れ難い人との出会いがあったりするものだ。小さな幸せは決して目立たずとも、貴方が気づいてくれるのを待っている。そんな「桜あんパン」の季節だ。