獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

夏の嵐

 初夏なのに何故か連日台風並みの強風が吹き荒れている。マンション8階の自宅のベランダへ出ると身体ごと吹き飛ばされそうである。外干ししてある洗濯物が今にも千切れそうな勢いで、激しく風に揺れている。突然早春に戻ったり、そうかと思うと突然真夏が訪れる。何やら不気味なのはコロナ・ウイルスだけではないようだ。

 人間世界には信じ難い出来事が次々起きている。それも自然現象とは関連づけられない人為的なものばかりだ。どうしてこうも人間は可笑しくなってしまったのだろうか。21世紀は成熟した現代文明の恩恵を受けて、豊かで便利なバラ色の日々が約束されていた筈が、いざ蓋が開くと理解に苦しむ事柄だらけである。

 市場経済原理はゴール間近に行き着くと、深刻な"悪足掻き"を始めるらしい。人心を蝕んで腐敗させ、その悪臭を地球上に撒き散らすらしい。カネという名の富を手にしても、必ずしも人間の心が豊かになる保証はどこにもない。むしろ富が更なる富へと発展して、悪臭が更なる悪臭を生む構造が出来上がっているようだ。

 何事も慣れ親しむことで感覚が麻痺し、正常と異常の区別が分かり難くなる。時代が移行するうちに当たり前のことが当たり前でなくなり、正邪が逆転して善悪すら判断できずに大勢に押し流されて"訳が分からなく"なる。誰でもが理解している筈の「正義」が揺らいで、本来は起こり得ない筈の「不正義」が横行する。

 文明の成熟はそのまま退廃へと直結して、信じるに足ると信じていたカネが暴走を始めるらしい。改めてその正体が明らかになっても一人歩きする市場原理を止められず、その凶暴性の前にひれ伏すのみで為す術がない。膿んで悪臭を放つ市場原理の人間社会は、遂には人間同士の殺戮へと魔の手を伸ばす。人種差別や民族対立の火種が消えることはない。

 人間社会を豊かで便利にする筈の現代文明とカネが、強大な威力を持って人間社会に立ちはだかっている。野放図に解放された社会は人間の欲望が暴走して、屡々アクセルとブレーキの踏み間違いが起きている。暴走するのは何も車に限ったことではない。色や形を確認できない見えない欲望が、何故か不思議に人間社会を貶めている。

 科学技術を過信して驕り高ぶる人間社会だが、長い技術の積み上げにも関わらず未だにその日の天候を変えられない。夏なのに真冬や春のような嵐が暴れ回っても、誰もどうすることが出来ないまま看過している。コロナ・ウイルスも絶滅の日は遠いだろう。バーチャル世界の夢に陶酔するのは勝手だが、リアル社会の足元はより重要だ。

 現実を見ずして架空の夢を追うのはいい加減卒業したらどうか。日々の暮らしは夢を喰っては生きられない。豊かで便利な社会を取り敢えず実現したものの、何やら大切なものをどこかへ置き忘れてきたのではないか。或いは見失ってしまったのではないか。荒れ狂うが如き夏の嵐に見舞われながら、未だ死に到らない老人はそんな感慨を強くしている。