獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

大切な時間

 私たちの日常は特別の努力をしなくても誰しもに平等に時間が訪れる。余りにも当たり前すぎて特別の感慨を持つ人はまず居ないだろう。時間は目に見えるわけではないし、その存在を実感するのは何かしらの人生の変化があった時であろう。善いにつけ、悪いにつけ、普段と違う日常が訪れた時に私たちは戸惑う。

 喜怒哀楽いずれの場面であっても、変化の真っ只中に居る時は時間が見えないし、時間を感じる余裕が失われる。その瞬間が永遠に続くような幸福感もあるだろうし、奈落の底へ突き落とされて時間が止まってしまう瞬間があるかも知れない。個人的な体験の場合もあれば、集団での共有体験もあるだろう。

 例え幸せの絶頂にあろうと、不幸のどん底に沈んでいようと、変わらず時間は流れている。その長短は人それぞれに違うだろう。見えるようで見えない時間の色合いも、人それぞれで変化するだろう。変わらぬ真理のようにいつもそこにあって、気がついて振り向くと色も形も残さずに消えている時間。いくら手探りしても実態を確かめようがない時間。

 そんな時間の中で私たちは生きている。気づこうが気がつくまいが一向構わず、時間は淡々と流れ去る。川の流れ同様に流れ去った時間は戻らない。茶席でよく使われる禅語に「一期一会」(いちごいちい)という言葉があるが、人が出会う万物はよろず生涯一度で、再びまみえることがあっても自分も相手も同じではない。ゆえに唯一無二の出会いであるとの大意だ。

 禅の奥深い世界観を語り出すと際限がなくなるので止すが、私たちの日常生活や長いスパンの人生は色々な自然に酷似している。無数の川が注いでも溢れることがない海や、どんなに暑くても寒くても動じない山々など、人間の叡智が及ばない絶対的真理が存在する。硬軟の存在感や感触など人智に尽くせないが、共通するのは同じ時間を享受していることだ。森羅万象等しく同じ時間を共有している。

 滅び行く命は動植物だけではない。すべてのものがやがて滅びて消え去る。運命だ、宿命だと感情を揺り動かすのは人間だけで、他の物体は何も語らず自然の儘に滅ぶ。何事があろうが、なかろうが、時間は変わらず過ぎてゆく。目の前を一瞬で過ぎていく時間を愛おしいと思いませんか ? それこそが私やあなたの人生そのものです。