獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

安倍政権7年8ヶ月

 安倍晋三現総理の在任期間が史上最長記録になったそうである。そう聞かされて何と感想を持つかは人それぞれの立場や感覚で異なるだろう。ある意味では慶祝に値することであるのだが、誕生の経緯から現在までを見て「おめでとうございます」という言葉は出てこない。一言で言えば世界の政界でも珍しい強運の持ち主であることは間違いなく、ここまでの強運は記憶を辿っても思い当たらない。

 然もという但し書きがつく特別な強運で、現在我が国の与野党を見渡してみてもライバルに相当する人物は見当たらない。ゆえに当人が望もうと望むまいと、ほぼ間違いなく命ある限り総理・総裁の座が揺るがないのである。象徴天皇制になった戦後の歴史の中でも皇族以外の天皇は存在しない。だが現安倍総理は別格で、名実ともに権力を兼ね備えた事実上の「天皇」である。

 天皇という呼称が適当か否かは別として、事実上の「国主」として奢るロシアのプーチン大統領に匹敵する。中国や北朝鮮共産主義国家の元首にも遜色ない。共産主義社会主義をモットーとした歴史を持つ国以外では前例がない。何ゆえここまでの権力集中が現実になったのか。現行制度としての民主主義を含めて、国民の間で真剣な議論が行われているとは到底思えない。コロナ禍の陰に隠れて国全体が惰眠を貪っている感が否めない。

 ここまでの危機的状況を迎えても、その認識を持つ国民がどの程度居ようか。故意か偶然かは別として、史上最長の安倍政権を誕生させた最大の要因は我が国の政党にある。戦後民主主義の成熟を横目に見て、その隙間を巧みに利用する小賢しい知恵を持つ議員ばかりが増えた。放任された駄々っ子よろしく、自分たちの立場を有利で強固にする法制度を次々実現させて事実上の「王様」になった。

 権力者の傘に入って器用に動き回る種族が選挙で増殖して、政党は政治信条の下に結集するイデオロギー集団と決別した。現在の与野党を見れば政治信条の気配すらないのがお分かりだろう。己の保身以外に何があるのか知りたいものである。それらの与野党議員がひしめく国会は最早政策を議論する場ではなくなっている。法制度に守られた無残な形骸に過ぎない。利権をばらまいて集票した「蟻」の如き集団が巣くう巣窟だ。

 それらの要塞に安倍総理に対抗する人材が育つわけはなく、見渡す限り雑草が生い茂る原野の趣だ。そんな我が国の風土に手厚く守られて、安倍晋三現総理の7年8ヶ月に及ぶ史上初の長期政権が実現したのである。支持率がじり貧状態で下がり続けても何のその、我関せずの涼しい面持ちである。例え世間がどう評価しようが政権は微動だにせず、呑気に大学病院へ検査に出向く余裕さえ見せる。

 安倍政権がいつまで続いて、いつ終息するのか、それを定かに予測できる人は居ないだろう。茫漠とした政治シーンに屹立する孤峰の趣である。それが私たち国民が望んだ我が国の政治であったのかを考えねばならない。先進国と言われる民主国家の姿であるのかどうかを問う必要がある。そしてこの政治状況を招いた元凶は何であるのかを。現在の我が国政界に浄化能力があるのかも。

 自浄作用が働くかどうかは、今般の立憲民主党と国民民主党の合流騒動を見れば自ずと分かるだろう。この両政党は自分たちの存在価値そのものさえ理解していない。合流して多数派を形成すれば政権奪取さえ可能だと信じている"ノー天気"ぶりである。これが最大野党であるから、他の野党に到っては"推して知るべし"である。この体たらくが万年与党自民党公明党を前例のない安定感を生んで支えている。

 安倍政権7年8ヶ月には当然賛否両論があるのは承知しているが、最大の課題は今後の展望が開けないことだ。現在の与党自民党にはハッキリ言って総理・総裁候補が不在だ。賞味期限切れや能力不足ばかりで、強いて上げれば茂木現外相に微かな期待が持てる程度である。当人がその気になっている岸田現政調会長が仮にも総理・総裁候補になるのなら、いっそのこと野党へ政権委譲した方がいいと私は思う。

 いやしくもこの国の現状と未来を考えるならば、骨のない軟体動物にこの国の命運を託すべきではない。それほど左様にこの国の命運は風前の灯火に等しい。長期政権は好むと好まざるとに関わらず膿を溜め込む。国民の目に見えるか否かは兎も角として、白日の下に曝せない恥部を分厚く蓄える。それは他ならない国民の負債である。誰が責任を持って始末するのか。

 いつ終わるのかが見通せない安倍長期政権の行く末は、決してハッピーではないだろう。不安や課題が山積しているだけに、誰しもがそう想像しながら行方を見詰めている。それが良くも悪くも紛れのない我が国の現状である。