獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

小さい秋

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 季節は確実に進んで朝晩の冷え込みが一段と身に応える。一日と言わず野山の風情が変わっているようだ。外出が困難な病人高齢者は高層住宅のベランダから眺める景色が全てで、少し足を伸ばすことが可能であれば色々な秋景色に出会えるのに残念である。丘の上の高層住宅にある我が家は、すぐ目の前に天然の小さな森がある。

 晴れた一日は朝から大小様々な昆虫や鳥が行き交い、結構そこそこに賑やかである。森の木々は殆どが落葉樹なので、黄色や茶色に色づいて落葉する。今年は未だ色づくに到っていないが、その時節が迫っている。近くの段丘斜面に植えられた桜の古木は鮮やかに色づいた赤い葉が舗道に舞っている。

 高層8階から眺める景色は、見慣れていても矢張り綺麗だ。遠近感があるので地平線が望めて、遠い街並みや低い山々がパノラマの絵模様を見せてくれる。丘陵地に立地しているので空気が澄んで、紫外線が反射してうっすらと青みがかって見える。春夏秋冬それぞれの風情が望めるが、低い山々が天然色を帯びるこの季節が私は好きだ。

 毎週訪問診療の医師と看護師が来る肺癌の重症患者だが、痩せ衰えた体を冷やさないようフリースの部屋着を着用しているので、そのままベランダへ出て陽光を浴び頬を撫でる風を楽しむ。物音が聞こえない静けさを破って、時折軽飛行機やヘリコプターが飛来するが、虫や鳥さんたちは気に懸ける様子もなく落ち着き払っている。

 黄色と黒のタイガー色のスズメバチやアブの仲間らしい虫に加えて、時に大きなトンボさんも我が家を訪問してくれる。ベランダの太い手すりに停まって、キョロキョロとこちらの様子を窺っている。害がないと判ると私の腕や肩に逗留し賜ったりする。体の大きさは違っても同じ地球の住人で、同じ命を生きている仲間だ。敬意の目で眺めている。

 限られた命を生きている仲間たちとの出会いを楽しみ、日々色合いを変える目の前の森を眺めて一日を過ごしている。感傷に満ちたシャンソンの調べが実によく似合う。どこまでも高い青い空を見上げながら、タイムリミットが迫りつつある自らの命を見詰め、その命を慈しむ秋だ。晴れた秋の日はとても気持ちがいい。