獨庵放言録

群れず流されず時代を見つめ続ける老人の、骨太で繊細な風変わりブログ!!!

豊かな「貧しさ」米大統領選

 妙で変な時代はそこかしこで"妙で変な"現象を生んでいるようだ。その最たるものが言わずと知れたアメリカ大統領選挙で、世界の盟主を自認して来た超大国の威信とプライドは今やどこを探しても見当たらない。まるで巨大利権を目の前にして相争う小さな田舎町の町村議員選挙さながらである。

 豊かさを世界に誇ってきた超大国が、どこで何を間違えたのか迷走している。世界をリードする知性と信念は見る影もなく、目に映り耳に聞こえる情報は薄汚い罵り合いの非難の応酬ばかりだった。このアメリカ大統領選を見て、誰が民主主義の明るい未来を想像し得ただろうか。世界に拡がる失望の連鎖を、足元のアメリカ国民は一体どう受け止めるのだろうか。

 悪いがどちらが勝ってもハッピーではないと言わざるを得ない他国の大統領選だから、好き勝手なことを言う野次馬になれる。元々黒人への根強い人種差別で激しい人種間の対立を負の伝統とする国だけに、経済格差などで一旦火が着くと収拾するのは容易ではない。今回の大統領選挙はその象徴的色彩を帯びて過熱し、過去の南北戦争にも似た状況を各地に広げた。

 現職候補のトランプ大統領が前回の選挙で掲げた「アメリカンファースト」が良くも悪くもアメリカ社会の労働者層に浸透して、分厚い新保守層を形成している。コロナ禍で危機的状況に追い込まれた層が、主義・主張とは別に無条件でトランプ支持に廻って予想外の善戦を助けた。前回の大統領選同様に各世論調査機関は実態を把握できず、相変わらずの「ノー天気」ぶりを披露した。

 政治の迷走はアメリカ社会のみでなく、同盟国である我が国にもある。"対岸の火事"と静観できないが、火中の栗を敢えて拾うとすれば熱が上がるだけ幸せなのかも知れない。我が国の場合は例え政情がどう変わろうと、関心を持って行動に移る国民は殆ど居ない。デモが行われるのは珍しく、それも惰眠している労働団体がお座なりに行う散発デモ程度だ。

 20世紀に豊かさを手にした世界の国々は、何故か知らないが「旧守回帰現象」へ一斉に舵を切りつつあるようだ。旧共産圏のロシアは長期政権のプーチン大統領が、皇帝志向を強めて独裁体制を築いている。旧守共産国の中国も習近平国家主席が長期独占体制を窺う気配で、隣国北朝鮮共産主義にあるまじき"世襲制度"である。旧王朝時代を再現して見せて憚らない。

 世界の共産主義が大きく様変わりし、それを目の当たりにした民主主義国家も少なからず揺らいでいる。我が国の政治が示す「古くて新しい保守」と「新しくて古い革新」とが、世界各地で鎬を削っている様相だ。何を目指してどこへ進むのか、誰も明確に予測できない時代になっている。思想・信条で争われた政治が終焉して、目先の経済利益優先の市場経済が世界を支配している。

 口先では"人間の尊厳"を云々しながら、本音ではどれだけ利益が得られるかのみに関心が集中する。グローバル社会云々はその本音をカモフラージュする方便で、早い話が利益を得るためなら世界のどこへでも出掛け安い労働力を使い捨てるという理屈だ。言い方を換えれば「金儲けのためなら何でもする」というだけの単純な話である。21世紀が到達した人間社会は、本当に「豊か」になったのだろうか。

 他国を顧みず、他人を顧みず、己の利益だけを求めることが"人間の尊厳"なのであろうか。そのために受験戦争を勝ち抜き、就活に神経を擦り減らしているのだろうか。それが究極の「豊かさ」であるとするならば、人間社会は若しかしたら「豊かさ」と逆の方向へ向かっているのではないだろうか。人間が本来持っていた"尊厳"を投げ出して、動物的に「野生化」しようとしているのではないかと危惧する。

 類い稀な泥仕合アメリカ大統領選挙は、いい意味でも悪い意味でも色々なヒントを投げかけた。どちらの候補が勝ったか負けたかには、申し訳ないが関心はない。悪いがどちらが勝っても負けても、同盟国アメリカ社会に幸せをもたらすとは考え難い。縦しんば世界の国々に好影響を及ぼすとも思えない。低次元の選挙は低次元の結果しか残さないからである。